「電気工事士は仕事がない」と聞いて、不安を感じたことがある方もいるかもしれません。インターネットや口コミで目にするこうした言葉は、ときに根拠のない噂がひとり歩きしてしまうこともあります。では本当に、電気工事士という仕事は安定していないのでしょうか。
たしかに、工事の種類や時期によっては、仕事の波があるのは事実です。特に小規模な工務店などでは、天候や景気の影響を受けやすく、一時的に現場の数が減ることもあります。そうした状況が「仕事がない」という印象につながっている可能性はあります。
しかし、実際の現場では電気工事士の人手不足が続いており、求人も安定して出されています。とくに都市部や工場、商業施設のような大型物件を手がける会社では、年間を通じて仕事の依頼が絶えないケースも少なくありません。
「仕事がない」と感じるかどうかは、所属する会社の業態や規模によって大きく違います。まずはその背景をきちんと知ることが、不安を和らげる一歩になります。
実際の求人動向と業界全体の人手不足
電気工事業界は、長年にわたり人手不足が続いています。その理由のひとつが、技術者の高齢化です。これまで長年現場を支えてきた世代が引退の時期を迎え、新しく入ってくる若手が足りていない状況が各地で起きています。特に第二種電気工事士などの資格保有者は常に需要があり、経験者はもちろん、未経験でも育てていこうという企業が増えています。
実際に求人情報を見てみると、「未経験者歓迎」「資格取得支援あり」といった条件の募集が多く見つかります。また、建設業全体でICTや省エネ設備の導入が進んでおり、それに伴って電気工事の仕事も多様化しています。太陽光発電や蓄電池、エコキュートといった設備の普及により、新築だけでなく既存住宅の改修工事も増加傾向にあります。
さらに、商業施設や工場、オフィスビルといった大規模な現場では、一定以上の資格を持った電気工事士の確保が法律で義務づけられているため、資格取得者の価値は今後も高まり続けると見られています。
こうした背景から、仕事が安定している会社に入ることができれば、「仕事がない」と悩むような状況にはなりにくいのが現実です。求人が少ないと感じるときは、地域性や会社の規模による偏りの可能性もあるため、視野を広げて求人情報を見ることが大切です。
仕事が少なくなるときの特徴と傾向
どんなに需要があるといっても、現場の仕事には波があります。特に小規模な事業者や個人経営の工事店では、依頼主の都合や季節によって仕事が集中したり減ったりする傾向があります。たとえば、真冬や真夏のように天候が厳しい時期は、工事が一時的に止まることもありますし、年度末に仕事が集中する傾向もあります。
また、新築物件中心の会社では、景気の動向や不動産市場の動きに左右されやすい面があります。不況時や住宅着工数が減少している時期には、新築現場の工事量が落ち込み、一時的に案件が減ることも考えられます。
一方で、公共工事や大手企業の案件を請け負っている会社は、年間を通じて比較的安定した受注があります。こうした企業は、受注の見通しやスケジュール管理がしっかりしているため、現場が極端に途切れるということはあまりありません。
仕事が少ない時期でも職人の収入を安定させようと、別の作業や社内研修を組み込むなど、工夫している会社もあります。求人を見るときには、「安定的な案件があるか」「大手や公共工事に関わっているか」など、会社の取引先や事業内容にも注目してみると良いでしょう。
需要の高い分野・資格・経験とは
電気工事士として安定した仕事を得るためには、どんな現場で、どんな力が求められているのかを知っておくことが大切です。現場の中には、特定のスキルや資格があることで優先的に仕事を任される分野もあります。そうした分野に関わることができれば、「仕事がない」と感じる場面を減らすことにもつながります。
近年、需要が伸びているのは、太陽光発電設備や蓄電池の設置、電気自動車向けの充電設備といった、省エネルギーや再生可能エネルギーに関連する分野です。また、ビルや工場では、空調設備や照明の改修工事が増えており、建物の「省エネ化」が進む中で、電気工事士の役割はますます広がっています。
資格面で特に重視されるのは、第一種または第二種電気工事士の免許です。これらを持っていると、住宅や工場、商業施設など幅広い現場で活躍できます。また、現場によっては「高所作業車」や「足場の組立て等作業主任者」といった補助的な資格も求められることがあります。これらを取得しておくことで、より多くの現場で必要とされる人材になれます。
経験も大切です。たとえば、配線工事の経験がある、配電盤の結線ができる、エアコン工事を一人でこなせる、といった実績は現場で重宝されます。最初から高度なことは求められませんが、「できることをひとつずつ増やしていく」という積み重ねが、仕事の安定につながっていきます。
長く安定して働ける環境を選ぶコツ
電気工事士として仕事を途切れさせず、長く安定して働いていくには、職場選びが非常に重要です。仕事内容や待遇ももちろん大切ですが、「この会社でなら安心して働ける」と感じられる環境かどうかを、冷静に見極める目が必要です。
まず見ておきたいのが、会社の取引先や工事内容の幅です。特定の住宅メーカーだけと取引している会社よりも、公共施設や商業施設、法人の工場など、複数の分野に関わっている会社のほうが、景気や季節に左右されにくい傾向があります。仕事の幅があるということは、それだけ安定した受注があるという証拠でもあります。
次に大事なのが、社員の定着率や雰囲気です。人の入れ替わりが激しい会社は、現場の負担が大きかったり、人間関係に課題があることもあります。できれば面接のときに「どれくらいの人が長く働いていますか」「入社後に困ったことがあったときは誰に相談できますか」といった質問をしてみると、会社の姿勢が見えてきます。
また、教育体制が整っている会社は、未経験者にも丁寧に仕事を教える風土があります。安全への配慮がしっかりしていて、無理な作業を強いられないかどうかも、職場環境を判断する材料になります。
見た目の給与や待遇だけで判断せず、「安定して働けるかどうか」という視点を持つことで、働き始めてからの後悔を防ぐことができます。
「仕事がない」と後悔しないために意識したいこと
「電気工事士は仕事がない」と感じてしまうのは、環境や情報の偏りが原因であることがほとんどです。現場の実情や業界の流れを知り、安定して働ける会社を選ぶことができれば、その不安はぐっと減ります。資格取得やスキルの習得を重ねながら、長く続けられる場所を選ぶこと。それが、後悔しない働き方につながっていきます。